「塗装は、塗る仕事ではない。待つ仕事だ」
建築会社を経営している私が、現場の職人によく言う言葉です。
外壁塗装で最も重要なのは、塗料を塗ることではありません。
塗った後、きちんと乾燥させることです。
でも、多くの施主の方は、これを知りません。
「早く終わる業者の方が、腕がいいのかな」
「工期が短い方が、近所にも迷惑がかからないし」
そう思われるかもしれません。
でも、断言します。
工期が不自然に短い場合は、乾燥時間を十分に取れていない可能性があります。
結果として、品質よりも“回転”を優先した提案になっているケースがあるため注意が必要です。
この記事では、現役の建築会社経営者として、
外壁塗装における「乾燥時間」の重要性と、それを守らない業者の裏事情を、
正直にお伝えします。
乾燥不足が引き起こす3つの「絶望的な末路」
乾燥時間を守らない塗装は、必ず失敗します。
その末路を、3つお伝えします。
1. 早期の剥がれ・膨れ
乾燥が不十分なまま次の工程に進むと、以下のような問題が起きます。
高圧洗浄後の乾燥不足
高圧洗浄の後、外壁材が完全に乾く前に塗装すると、塗料が水分を含んだ下地に密着しません。
結果、塗装後1〜2年で剥がれや浮きが発生します。
必要な乾燥時間:24時間以上
特に、モルタル壁やALC(軽量気泡コンクリート)は吸水性が高く、乾燥に時間がかかります。
雨の翌日に高圧洗浄をした場合、さらに時間がかかります。
でも、工期を急ぐ業者は、この乾燥時間を待ちません。
※塗料・気温・湿度・下地で変動します。
下塗りの乾燥不足
下塗りが乾く前に中塗りをすると、下塗りと中塗りが混ざり合い、
本来の密着力が発揮されません。
塗膜の内部に溶剤や水分が閉じ込められ、膨れや浮きが発生します。
必要な乾燥時間:塗料によって異なるが、最低3〜4時間、推奨は24時間
シーラーなどの速乾性の下塗り材でも、完全に乾燥するには3〜4時間かかります。
フィラーなどの厚塗り下塗り材は、24時間以上必要です。
※塗料・気温・湿度・下地で変動します。
2. 塗料の性能低下
塗料メーカーは、
「適切な乾燥時間を確保した場合に限り、カタログ通りの性能を発揮する」と明記しています。
乾燥時間を守らないと、以下のような問題が起きます。
- 耐用年数が大幅に短くなる(10年持つはずが5〜6年で劣化)
- 防汚性・低汚染性などの機能が発揮されない
- 色あせや変色が早く進む
高性能な塗料を使っても、乾燥時間を守らなければ、その性能は発揮されません。
「せっかくフッ素塗料を使ったのに、7年で劣化した」
こうした相談を受けることがありますが、
多くの場合、乾燥時間が守られていないことが原因です。
| 省略されやすい乾燥 | 必要な乾燥時間 | 起きやすい不具合 | 保証やトラブルの注意点 |
|---|---|---|---|
| 高圧洗浄後 | 24時間以上 | 塗料の密着不良、早期の剥がれ・浮き | 施工基準違反として保証対象外になる可能性 |
| 下塗り後 | 3〜24時間(塗料による) | 下塗りと中塗りが混ざる、塗膜の膨れ・浮き | メーカー保証が適用されないケースあり |
| シーリング後 | 24時間以上 | 塗膜の変色、密着不良、シーリングの劣化 | 取り合い部分のトラブルは保証範囲外が多い |
3. 保証対象外のリスク
これが、最も深刻な問題です。
塗装後に剥がれや膨れが発生しても、保証が使えないことがあります。
メーカーの施工基準違反
塗料メーカーは、施工マニュアルで乾燥時間を明記しています。
例えば、「下塗り後、3時間以上乾燥させてから中塗りを行うこと」といった指定があります。
これを守らない場合、メーカーの施工基準違反となり、メーカー保証は適用されません。
業者の保証も対象外になる可能性
業者の保証書にも、
多くの場合、「メーカーの施工基準に従って施工した場合に限る」という条件が書かれています。
乾燥時間を守っていない施工は、施工基準違反です。
保証書があっても、
「適切な施工が行われていない」として、保証対象外とされる可能性が高いのです。
高圧洗浄の手抜きが保証対象外になる理由については、
高圧洗浄の手抜きが保証対象外になる理由で詳しく解説していますので、
併せて確認してください。
【深掘り】「乾燥時間=職人の給料(人件費)」という経営側の裏事情
なぜ、業者は乾燥時間を守らないのか。
経営者の立場から、正直にお話しします。
乾燥時間を待つ=職人の人件費が1日分増える
外壁塗装の原価の中で、最も大きな割合を占めるのが「人件費」です。
職人1人あたりの日当は、地域や技術レベルにもよりますが、1万5千円〜2万5千円程度です。
2人の職人で作業する場合、1日あたり3万円〜5万円の人件費がかかります。
乾燥時間を待つとどうなるか
高圧洗浄後に24時間乾燥させる場合、その日は作業ができません。
でも、職人は待機しているわけにはいかないので、別の現場に行きます。
翌日、また戻ってきて作業を再開します。
この「戻ってくる」という移動時間や、スケジュール調整のロスが、
業者にとっては「無駄なコスト」になるわけです。
乾燥時間を無視するとどうなるか
高圧洗浄の翌日、乾燥を待たずにすぐに下塗りに入れば、
職人は別の現場に移動する必要がありません。
連続して作業ができるため、スケジュールが効率的になり、
移動コストや待機時間のロスがなくなります。
結果、業者の利益が増えます。
これが、経営側の本音です。
乾燥時間を守らない業者は、あなたの家の品質よりも、自社の利益を優先しているのです。
「工期10日」と「工期14日」の違いは、乾燥時間の有無
同じ外壁塗装でも、工期が大きく違うことがあります。
その違いの多くは、乾燥時間を確保しているかどうかです。
| 項目 | 適切な工期(14日間) | 無理な工期(10日間) |
|---|---|---|
| 1日目 | 足場設置 | 足場設置 |
| 2日目 | 高圧洗浄 | 高圧洗浄 |
| 3日目 | 乾燥(作業なし) | 下地処理・下塗り |
| 4日目 | 下地処理 | 中塗り |
| 5日目 | 下塗り | 上塗り |
| 6日目 | 乾燥(作業なし) | 付帯部塗装 |
| 7日目 | 中塗り | 足場撤去 |
| 8日目 | 上塗り | (終了) |
| 9日目 | 付帯部塗装 | – |
| 10日目 | 検査・手直し | – |
| 11日目 | 足場撤去 | – |
右側の「無理な工期」では、高圧洗浄の翌日にすぐ下塗りに入っています。
乾燥時間がありません。
また、下塗り・中塗り・上塗りを連続して行い、各工程の乾燥時間も確保していません。
左側の「適切な工期」では、高圧洗浄後と下塗り後に乾燥期間を設けています。
この4日間の差が、品質を左右します。
安すぎる見積もりには、必ず理由があります。
それは、工期を短縮し、人件費を削減しているからです。
適切な工期を守り、適正な人件費をかけている業者かどうかを、複数の視点から確認しましょう。
「一式表記」の見積もりに隠れた工期短縮の罠
見積書に「外壁塗装工事一式 ○○万円」とだけ書かれている場合、工程の詳細がわかりません。
乾燥時間を確保しているかどうかも、確認できません。
見積書の「一式」表記に隠された工期短縮の罠については、
見積書の「一式」表記に隠された工期短縮の罠で詳しく解説していますので、
見積もりを受け取ったら確認してください。
乾燥時間を削って利益を出す業者は、
見積書の『一式』表記に隠された工期短縮の罠のように不透明に作り、
具体的な工期を隠そうとする傾向があります。
【実録】経営者が現場で見抜く「乾燥時間を守っていない」危険なサイン
現場を見てきた経験から、乾燥時間を守っていない業者の特徴をお伝えします。
サイン1:高圧洗浄当日に下塗りをしている
高圧洗浄を午前中に行い、午後から下塗りに入る。
これは、完全にアウトです。
外壁材が乾くには、最低でも24時間必要です。
※塗料・気温・湿度・下地で変動します。
半日では、表面は乾いているように見えても、内部には水分が残っています。
この状態で塗装すると、塗料が密着せず、後から剥がれます。
現場でこれを見たら、即座に作業を止めるべきです。
サイン2:1日で三度塗りを完了させている
下塗り・中塗り・上塗りを、1日で完了させる。
これも、危険です。
各工程には、乾燥時間が必要です。
下塗りが乾く前に中塗りをすると、下塗りと中塗りが混ざり合い、本来の性能が発揮されません。
1日で三度塗りを完了させる業者は、乾燥時間を完全に無視しています。
サイン3:雨上がりの翌日に強行している
前日に雨が降った場合、外壁材は濡れています。
雨上がりの翌日に作業を強行する業者は、乾燥時間を軽視している証拠です。
雨の翌日は、晴れていても湿度が高く、乾燥に時間がかかります。
誠実な業者なら、「雨の影響で、1日工程を遅らせます」と説明してくれます。
サイン4:工程表に「乾燥」という項目がない
見積もりと一緒に工程表をもらったとき、
「乾燥」という項目がない場合、乾燥時間を確保していない可能性が高いです。
理想的な工程表には、「高圧洗浄後:乾燥1日」「下塗り後:乾燥1日」といった記載があります。
これがない場合は、業者に確認してください。
「乾燥時間は確保されていますか?」
この質問に対して、明確に答えられない業者は、注意が必要です。
外壁塗装の正しい工程と必要な日数については、
外壁塗装の正しい工程と必要な日数で詳しく解説していますので、
工程表を受け取ったら確認してください。
サイン5:シーリング(コーキング)の乾燥を待たない
外壁と窓枠、外壁と雨樋など、異なる部材が接合する「取り合い」部分には、
シーリング(コーキング)が使われています。
シーリングを打ち替えた後、完全に硬化するまでに時間がかかります。
シーリングの硬化時間:24時間以上(製品や気温によって異なる)
シーリングが完全に硬化する前に上から塗装すると、
シーリング材から揮発成分が放出され、塗膜を変色させたり、密着不良を起こしたりします。
誠実な業者は、シーリングを打ち替えた翌日以降に塗装を行います。
※塗料・気温・湿度・下地で変動します。
失敗を防ぐ自衛策!見積もりと契約時に必ず確認すべき3つのこと
乾燥時間を守る業者を選ぶために、確認すべきポイントをお伝えします。
1. 工程表に「乾燥」の記載があるか
見積もりと一緒に、工程表(スケジュール)をもらってください。
工程表に、以下のように乾燥期間が記載されているか確認します。
- 高圧洗浄後:乾燥1日
- 下塗り後:乾燥1日
- シーリング打ち替え後:乾燥1日
これらの記載がある業者は、乾燥時間の重要性を理解しています。
記載がない場合は、業者に確認してください。
「乾燥時間は確保されていますか?」
2. 工期が適切か
30坪程度の住宅の場合、適切な工期は10日〜14日程度です。
これより極端に短い工期(7日以内など)を提示する業者は、
乾燥時間を確保していない可能性が高いです。
「なぜこの工期で終わるのですか?」
この質問に対して、納得できる説明ができない業者は、注意が必要です。
なぜ業者によって工期や金額の提案が変わるのかについては、
なぜ業者によって工期や金額の提案が変わるのかで詳しく解説していますので、
複数の見積もりを比較する際に参考にしてください。
3. 「雨が降ったらどうなりますか?」と質問する
この質問に対する業者の回答で、乾燥時間への意識がわかります。
誠実な業者の回答
「雨が降った場合は、工程を調整して、しっかり乾燥させてから次の工程に進みます。
工期が1〜2日延びることもあります。」
注意が必要な業者の回答
「雨でも作業を進めます。」
「多少濡れていても問題ありません。」
「屋根があるので大丈夫です。」
後者のような回答をする業者は、乾燥時間を軽視している可能性が高いです。
契約書に「メーカーの施工基準に従う」という記載があるか
契約書に、「メーカーの施工基準に従って施工する」という記載があるか確認してください。
この記載があれば、乾燥時間を含む施工基準を守る義務が業者に課せられます。
保証が有効になる条件についても、確認しておくことをおすすめします。
外壁塗装の保証で必ず確認すべき項目については、
外壁塗装の保証で必ず確認すべき項目で詳しく解説していますので、
契約前に確認してください。
まとめ:焦りは禁物。正しい乾燥が「家の寿命」を10年延ばす
外壁塗装における「乾燥時間」は、品質を左右する最も重要な要素です。
乾燥時間を守らない塗装は、
- 「早期の剥がれ」
- 「膨れ」
- 「塗料の性能低下」
- 「保証対象外のリスク」
を引き起こします。
工期が短い業者は、腕が良いのではなく、乾燥時間を削って人件費を節約しているだけです。
以下のポイントを確認してください。
- 工程表に「乾燥」の記載があるか
- 工期が適切か(30坪で10日〜14日程度)
- 「雨が降ったらどうなりますか?」という質問に、誠実に答えてくれるか
- 契約書に「メーカーの施工基準に従う」という記載があるか
高圧洗浄後は24時間以上、下塗り後も塗料によっては24時間の乾燥が必要です。
シーリングの硬化時間も確保する必要があります。
これらを守らない業者は、メーカーの施工基準違反となり、保証が適用されません。
※塗料・気温・湿度・下地で変動します。
焦りは禁物です。
正しい乾燥時間を確保することで、塗装の寿命は10年延びます。
目先の工期の短さではなく、基本を忠実に守る業者を選んでください。
外壁塗装の成功は、目先の速さではなく、基本を忠実に守る業者選びにかかっています。
まずは地元の誠実な業者を探すことから始めましょう。
最後に|この記事を家族で共有してください
建築会社を経営してきた立場から、最近特に感じていることがあります。
「早く終わる業者の方が、腕がいい」という誤解が、非常に多いことです。
特に高齢のご両親や祖父母が一人で業者と話を進めている場合、
「早く終わるなら助かる」と考えて、工期の短い業者を選んでしまうことも少なくありません。
でも、外壁塗装は、速さを競うものではありません。
乾燥時間を守り、丁寧に仕上げることが、家を長く守るために必要なのです。
この記事を、ご家族で共有してください。
- 「工程表に乾燥期間が記載されているか」
- 「工期が適切か」
- 「雨が降った場合の対応はどうなるか」
こうした点を一緒に確認することで、より納得できる判断ができます。
一人で抱え込まず、家族や信頼できる人に相談しながら、
じっくり時間をかけて業者を選んでください。
速さよりも、正確さ。
それが、外壁塗装で後悔しないための鉄則です。
焦らず、納得できるまで確認してから契約してください。
この記事が、あなたとご家族の判断材料の一つになれば幸いです。


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